魅力あふれるアラブの世界(第2回)アラブ圏と日本文化との共通点(食事編)
この記事は、アラブ圏をターゲットとした商品開発や販路開拓、海外企業との協業等を検討されている、経営者や事業責任者の方にお伝えしたい情報です。
弊社スタッフがアラブ圏での在住経験をもとに、工業・人材・食・生活・美容・宗教など、多種多様なアラブ圏の特徴と魅力を、様々な角度からご紹介していきます。
日本にも全国津々浦々、北はジンギスカンから南はサーターアンダギーまでその地域特有の食文化や言語を有するように、実はアラブ圏でも東西で地域固有の食文化や、一方で共通する食文化もあります。料理と言葉はその土地の歴史や伝統を表していると感じます。
今回は個人的に興味深かったアラブ圏と日本の共通する食文化について紹介したいと思います。
1. お米の郷土料理(チュニジアのロウズジェリビ、エジプトのコシャリ、シャームのマクルーバ、サウジのカブサ)
以前のブログで、アラブ圏はパン文化であることを紹介しましたが、実は同時にお米も食されています。チュニジアでは、ロウズジェリビ(“ジェルバのお米“)というお米料理があることも紹介しました。実はマシュリク(アラブ世界を東西に二分する呼称でアラブ圏の東方地域。こちらのブログをご参照下さい。)一帯では、特に米文化が広がっており、スパイスの多用、ナッツ類を入れるなど日本の米の種類ともまた違ったアラブ飯があります。
エジプトではコシャリと呼ばれる、お米にパスタやマカロニやナッツ等を入れた米料理があります。
シャーム(レバント)地域ではマクルーバ(「ひっくり返された」の意)と呼ばれる肉や野菜入りの炊き込みご飯でその名の通り鍋炊された米料理をお皿の上にひっくり返し、ナッツ等で盛り付けされた料理です。シリア風マクルーバやレバノン風マクルーバ等で場所によって具材も多少変わります。
またシャームと湾岸諸国の境に位置するヨルダンではマンサフと呼ばれるパン生地の上に盛られたヨーグルト入りの炊き込みご飯が食されています。
湾岸諸国ではサウジアラビアの名物料理カブサが食べられ、こちらも肉や野菜の炊き込みご飯で、国、地域によってマクブースやマジュブースと呼ばれています。
さらにイエメンでは同国のハドラミ族が起源とされる米料理マンディが食され、難民で逃れた先の国々でもイエメン料理が広がっています。
イスラム教という共通項があるパキスタンなどの南アジアでも、米料理ビリヤニがあり、現在国内に2億人を有するインドのイスラム教徒が起源とされています。ビリヤニはイラクでも食されイスラム圏のイランを介して伝来したとも言われています。
日本ではお米の消費量が減少傾向ですが、アラブ圏と同様にパンとお米が併用して食べられている点、またアラブ諸国では地べたに座って食べる伝統的なスタイルがあり、この点も日本の伝統的な様式に共通しています。
2. お茶文化(ミント茶、紅茶、緑茶、ハーブ茶)
以前のチュニジアブログで、チュニジア人はコーヒーをよく飲むことを紹介しましたが、実はお茶も家庭やカフェでよく飲まれています。日本と異なる点は、コーヒーと同じく砂糖をふんだんに入れることです。モロッコのミントティーでご存じの方も多いでしょうか。ミント以外にも、緑茶、紅茶などチュニジアでも飲まれています。
これはマグレブ地域だけかもしれませんが、お茶の淹れ方には作法が見受けられます。現地の方はあまり意識されていないようですが、モロッコ等へ観光された方は独特のお茶の淹れ方を、目にされた方も多いのではないでしょうか。チュニジアでも、特に年配層に特徴的な淹れ方が見られます。それはある程度高さを保った位置からお茶を注ぐことを数回繰り返し、お茶の表面に泡が浮くように淹れるのです。そうしないとお茶を淹れた気になれないだとか、よりおいしくなるだとか様々です。家庭で若者はお茶の淹れ方がなってないと指摘され、やり直しさせられることもあります。高さを保った淹れ方が作法ということでしょうか。
建設現場等で働く男性陣の間ではお茶セット(ミニコンロと茶葉と砂糖等)を持参して休憩の合間に仲間内で飲み、お茶は男女問わず淹れられ、男性は飲みたい時に自らお茶を淹れることも多々あります。
健康を意識した女性陣の間では、家庭でシナモンやクローブ、レモン等を加えた砂糖抜きのハーブティーを作って飲む人もいます。ハーブ類は薬草として体調が優れない時の薬代わりにも使用され、特に中高年女性のハーブに関する知識は若者と比べ、先人の知恵を感じます。
チュニジアを含む地中海に面するアラブ圏では、タイムやローズマリー、カルダモン、マジョラム、セージ、レモンバーム、ローリエ等のハーブ類が、お茶以外にもスープや肉料理、パン作り等の様々な場面で使用されています。
日本では、ハーブは西洋からもたらされたという高価なイメージがありますが、チュニジアではおじいさんでも市場(スーク、マルシェ)へ買いに行ったり、山間部の地域では山に摘みに行ったりするほど身近な存在です。
日本茶と言えば、甘い和菓子やせんべい等が合いますが、アラブ圏では甘いお茶と甘いアラブ菓子です。個人的には砂糖抜きのお茶であればアラブ菓子は日本人にも合うのではと感じます。お茶とアラブ菓子で私のおすすめはグライバ(グライベ)です。形も国・地域によって様々で、チュニジア版グライバの種類も豊富ですが、ホムス(ひよこ豆)のグライバは、ラマダン月にス-パーでも出回っています。出張や駐在の方は日本茶を持参してみるのもいいかもしれません。
3. 魚料理(コイ、ボラ、スズキ、タイ、イワシ、カツオ、マグロ、サバ)とカーヌーン(七輪)
日本と全く同じ種類の魚ではないですが、アラブ圏でも地域によって様々な魚料理が、パン類のおかずとしても食されています。
マシュリク地域のイラクは国内に北西から南東に流れるティグリス(ダジュラ)川とユーフラテス(フラート)川を有します。同国南部には人類史上最古のシュメール文明やアッカド文明等の総称であるメソポタミア(ギリシャ語で川と川の間)文明が栄えた場所で、アラビア語でも同様の意味の呼び名です。同地域は古代から川魚を加工、調理して食べる習慣があります。シュメール神話のApkallu(أبكالو)と呼ばれた7人の半神(半魚半神人)は半魚人の姿で描かれ、ギルガメシュ叙事詩には、人々が魚を食べる姿が多く描写されており、現在のイラク人にも受け継げられています。
イラク料理のマスグーフは世界で最も古い料理の一つと言われる“魚の焼き方”で、コイを代表する様々な種類の川魚を、網焼きや串焼きにした魚料理です。現地では水曜日に食べる習慣があります。 またマスムータは塩干しされた川魚の干物をぶつ切りにしてスープにした料理です。
エジプトではフィシーフ(“腐敗した”という意)と呼ばれるボラを塩漬けにし、乾燥、発酵させた日本のクサヤに似た魚の干物があり、その臭みから人によって好みは様々ですが食されています。また、「エジプトはナイルの賜物」と呼ばれるように、同国ではナイルティラピアと呼ばれる川魚も食されています。
イラクやエジプトの古代文明は川の付近で興りましたし、川の付近と文明に何か関係があるのかもしれませんね。
シャーム地域でも地中海でとれたスズキやタイの焼き魚が食されおり、同じく地中海諸国のチュニジアでも、ボラやスズキの海鮮クスクスが食べられますし、イワシ、タイ、カツオ、マグロも食され、衣をつけて揚げ魚にしたり、スパイスをつけてカーヌーン(七輪)で炭火焼きにしたりします。
近年の世界的な寿司人気の影響で、チュニジア産マグロは日本へも輸出され、国内の魚価格は上昇傾向ですが、最近は日本食レストランもできており、チュニジア人が国内外で生魚に挑戦する機会も増えています。
チュニジアの魚市場では様々な魚介類が売られています。地中海料理であるイタリアやスペイン料理はチュニジア食材でも作れるので、自分で捌ける方は是非チュニジア産の魚介類にも挑戦してみてくださいね。
今回は、アラブ圏と日本の食文化の共通点について紹介しました。
上述の通り、マシュリク地域ではお米料理が多く見受けられます。またひよこ豆(ホムス)のペーストを使用した料理はシャーム地域でよく食されますし、陸続きのため北方のトルコや東方のイラン料理等と共通する食文化も有します。
一方でクスクスはマグレブ地域の代表的な料理で、アラビア語マグリブ方言に至ってはアマジグ語からの言葉も多いです。
現在のネット社会では検索すれば、簡単にレシピはわかりますし、チュニジアの家庭ではシャームのクナーファも作られ、料理が国境を超えて簡単に行き来しています。
アラブ圏は東西で特色ある食文化が見られるものの、マシュリクの中でも湾岸諸国ではデーツが、シャーム地域ではオリーブやブドウ、デーツも実り、マグリブ地域と共通する食文化もあります。
既に欧米では、アラブ圏のクスクスやシャワルマ(フランスではケバブの名称で広がる)が食文化の一部となりファストフードとして手軽に食べられています。またシャーム地域の料理であるファラフェル、ケッベ、タブレ(パセリ風味のサラダ)、ホムス(“ひよこ豆”のペーストされた料理)など、盛り付けセンスのある見た目のきらびやかな料理が世界中の人々を魅了しています。特にレバノンは過去の内戦で南米やアフリカへ渡るレバノン移民も多かったため、例えばメキシコのタコス・アル・パストールはレバノン料理と融合しています。
アラブ料理店は日本にもありますので、是非特色あるアラブ料理に挑戦してみて下さいね。