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魅力あふれるアラブの世界(第5回)アラブ圏と日本文化との共通点(公衆衛生編)

 この記事は、アラブ圏をターゲットとした商品開発や販路開拓、海外企業との協業等を検討されている、経営者や事業責任者の方にお伝えしたい情報です。
 弊社スタッフがアラブ圏での在住経験をもとに、工業・人材・食・生活・美容・宗教など、多種多様なアラブ圏の特徴と魅力を、様々な角度からご紹介していきます。

 今回は、アラブ圏で生活をしてみて個人的に感じた日本との共通点について、トイレ環境、礼拝施設、住居環境、感染症対策の視点から、アラブの公衆衛生面についてご紹介します。


1. トイレ(手動ウォシュレット)

 日本との共通点を感じた興味深いものはウォシュレットです。湾岸諸国の空港でトランジットする方々は経験されたことがあるかもしれませんが、ホースがついたトイレを見かけることがあります。私たち日本人からするとどのように使用するのか不思議に思われるかもしれませんが、日本版の手動ウォシュレットとして使用します。 

 日本ではウォシュレットはトイレットペーパーと併用し、より機能的で安心感のあるトイレ環境となっていますが、アラブ圏では、このトイレに備え付けのホースが、臀部を清潔に保つ上で大変重要な役割を果たします。
 1970年代の2回に渡るオイルショックで、日本ではトイレットペーパーが品切れ状態となりましたが、アラブ圏ではトイレットペーパーは、あれば使用するという感覚で優先順位が異なります。ただアラブ圏では手動ウォシュレットのため床が水浸しになることもあります。
 この点からすると日本の乾燥機能も備えた革新的なウォシュレットは、アラブ人にとって伝統的かつ先進的なトイレであると感じます。


2. 礼拝前のウドュー(手顔足を清める)と靴を脱ぐ文化

 以前のブログで、イスラム教では、礼拝時に日本の仏事で使用する数珠に似た“ミスバハ“を使用すること、日本の尼僧頭巾に似たヒジャブを被る女性もいることも紹介しました。
 他にも共通点を感じた行為は、家やモスクでの礼拝前に、手、顔、足の順に3回ずつ洗う、ウドュー(وضوء)と呼ばれる宗教行為です。日本でも神社仏閣にある手水舎(てみずや、ちょうずや)で、備え付けの柄杓(ひしゃく)で水をすくって手や口を清める機会があるかと思います。

Wudu(ウドュー)

 さらにモスクの中では必ず靴を脱ぎます。神聖な場所に穢れを祓う行為なのでしょうか。また靴を脱いだ状態から、正座の姿勢で礼拝(サラートصلاة‎)をします。日本でも仏壇へのお参りやかつての仏式葬儀では正座が主流ではなかったでしょうか。

 そしてアラブ圏に位置するチュニジアで生活して目の当たりしたのは、北部、南部、世代を問わず、礼拝以外でも室内で靴を脱ぐ人々がいることでした。もちろん玄関で靴を脱ぐスペースはないものの、自分の部屋に入って室内靴としてビーサン等に履き替えたりする人も見かけました。また室内では絨毯に上がる時だけは履物も脱ぎ、半土足の状態でした。もちろんチュニジア人の中でもごく一部に過ぎませんし、大半が土足で家の中で過ごします。

 実は昔のアラブ・イスラム建築の建造物は住居の中央に中庭(الباحةまたはالفِناء)があり、中庭やキッチン、トイレでは土足の一方で、中庭から各部屋へ入る際には履物を脱ぐ習慣がありました。建築用語ではパティオ(スペイン語で中庭の意)と呼ばれているでしょうか。

 このように古代アラブ世界では住居衛生を意識した、土足と裸足に区分けされた住環境があり、現代の半土足環境はその名残なのかもしれませんね。


3. アルコール含有の消毒液、飲料

 以前のブログで、アラブ世界ではアルコールは古代より薬品として使用されアラビア語のアルコホールから由来することを紹介しました。今回はコロナ禍のアラブ圏でのアルコール消毒液の使用状況についてご紹介します。
 多くの方々がアラブ圏はイスラム教徒が大半なので、どんなものにもアルコールは使用しないと考えられているでしょうか。アラブ圏に位置するチュニジアでは、必要なアルコールが入っていない薬品は効果がないという認識があり、コロナ禍ではアルコールジェルや消毒液が使用され、国産アルコールジェル等少なくとも3メーカー見受けられました。
 アルコールは食品、飲料に含まれる場合において基本的に禁止であり、医療行為で使用するメス等の手術器具の消毒は例外として認められているため、アルコール含有の消毒剤の使用にも抵抗がありません。
 世界19億人のイスラム教徒を一概に定義することは難しく、国、コミュニティ、世代間等、様々な宗教観がある一方で、共通する宗教観もあります。イスラム教を共通項とする国々の中には、できるだけアルコールが含まれない方が良いと考える価値観も一定数存在するため、アルコール抜きの手指消毒液を好む方々もいます。実はこうしたアルコール含有がないムスリムフレンドリーの商材に対しても日本企業は販路を広げています。

 またアルコール飲料については、比較的自由が利くチュニジア国内でさえ、飲料としてのアルコールに対する宗教観は様々です。お酒を一切口にしない方もいますし、国産ビールであるセルティアや海外のハイネケン等を嗜む方もいます。 “お酒”については完全に個人の意思で、各々で考え方や捉え方が異なり、若い頃は飲んでいたが、中高年になり、心身ともに清めるという考えでお酒を断つ方もいます。

 アルコールの過剰摂取は糖尿病やがんに代表されるNCDs(非感染性疾患)を招くリスクがあります。近年日本のアルコール市場は右肩下がりですが、ノンアル市場は拡大傾向です。ここチュニジアでもノンアルビールを嗜む方もいますし、この点でも、日本企業のイスラム圏ノンアル市場への進出も多いに期待できるのではないでしょうか。


 今回は、公衆衛生について、アラブ圏で生活してみて個人的に感じた日本との共通点についてご紹介しました。
 公衆衛生と言えば、コロナ禍の入国管理において、日本の空港では到着時の陰性検査のため唾液を採取する手段として、“梅干し”の写真が活用されていましたが、当然ながら梅干しを食べたことのない外国人に梅干しを見せても、唾液は採取できません。ただオリーブ文化圏のアラブ人であれば、塩漬けオリーブを思い浮かべると唾液が出てきます。
 今後、地中海諸国のオリーブ文化圏の方々に唾液採取の機会がある医療関係者の方は、是非梅干しの代わりに塩漬けオリーブの写真を活用されてみて下さいね。

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