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チュニジア現地レポート(第17回):ウクライナ情勢によるチュニジアとアラブ圏への影響

こちらの記事は、チュニジアやアラブ圏の政治や経済の現状に関心のある方々にお伝えしたい情報です。

2022年8月開催予定のアフリカ開発会議(TICAD8)開催国であるチュニジア。
弊社スタッフSが、チュニジア北部・南部両方での居住経験をもとに、チュニジアの実態と魅力を政治・経済・文化など様々な角度からご紹介していきます。
今回の記事では、ウクライナ情勢を受けたチュニジアやアラブ諸国の動向、各国の対応の現状についてご紹介します。

1. チュニジアでは小麦製品が店からなくなる

小麦の世界の産出量の3割はロシアとウクライナが占めています。ロシアのウクライナ侵攻の影響は、パンを主食とするチュニジアをはじめとするアラブ圏にも影響が出ています。

アラブ圏では「パンを食べる」というアラビア語の言葉は「お金を稼ぐ」という意味があるほど、パンはアラブ圏では重要な主食となっています。一時、チュニジアのパン価格は上昇し、小麦粉やパスタ等が店頭から消えるという事態が発生しました(コロナ発生初期も買いだめ騒動で店から小麦製品がなくなりました)。

チュニジアではスーパー等でお米も安価で手に入りますが、やはり、パスタやマカロニを含めた小麦製品がよく食べられています。現在は政府介入によりパン価格が据え置かれていますが、パスタやクスクスが見つけにくい状態になっています。

チュニジアは古代よりローマの穀物庫と言われているものの、近年、国内での小麦生産は縮小傾向です。チュニジアの小麦の60%はウクライナとロシアから輸入しています。また近年の気候変動による気温上昇や、昨夏は小麦の産地である北西部の山火事等で、今年の小麦収穫にも影響を与える可能性も出てきています。こういった食の安全保障の観点から、自国内の生産にも力を入れるべきだという声も出ています。

日本ではバゲットといえば「フランスパン」の名で通っていますが、チュニジア人はフランス人よりもバゲットを消費すると言われ、毎食食べるバゲット価格の上昇は日々の国民生活に大きく影響します。チュニジアでのパン価格は据え置かれていますが、人口約1億人のエジプトではパン価格が1.5倍に上昇ヨルダンでは既に家畜への飼料価格も高騰しています。多くのアラブ諸国では小麦の大半を輸入しており、小麦の国際価格の上昇が社会混乱をもたらす可能性も報道されています。

2. チュニジアの天然ガス・石油調達への影響

チュニジアは石油や天然ガスのエネルギーの多くをアルジェリアから輸入しています。国内消費する電力の90%以上が天然ガスによる発電と言われています。

これまでEUの天然ガスの約半分をロシアが賄っていましたが、今回のロシアのウクライナ侵攻に伴い、EUがロシアからの天然ガスの輸入を停止する方針を発表しました。これにより不足する天然ガス供給の穴埋めの一つとして、EU全体の天然ガスの1割に当たる量を供給してきたアルジェリアが供給量増加に対応すれば、それに伴いチュニジアのエネルギー価格が上昇する可能性もあります。

また、国際原油価格も高騰しています。原油価格は侵攻前から上昇傾向でしたが、石油産油国のアラブ圏やアフリカ大陸等からなるOPECプラスの会合では石油の増産は見送るとのことでした。産出国はこの高騰する石油価格に便乗して、ゼロエミッションに向けた最後の特需を狙っているのでしょうか。少なくとも、サウジアラビアやアルジェリアにとっては、今回のウクライナ情勢は経済的には追い風となっています。

チュニジアでのガソリン価格は一時上昇したものの、政府の罰則規定強化により、現時点では価格が据え置かれています。ただし、どれほどの余剰分が政府にあるのか、どこまで持ちこたえるのかは、不明です。

実はチュニジアには油田とガス田があり、少量ながら石油と天然ガスの産出量は増加傾向です。同時に、チュニジアでは再生可能エネルギーの割合も増やしており、今後太陽光エネルギーの割合増加も政策目標に組み込まれています。

3. アラブ圏からみたウクライナとシリア・イラク

チュニジアを含む多くのアラブ人にとってウクライナ情勢は、数年前のシリア内戦を彷彿させます。

シリア内戦は、2011年にチュニジアを発端に波及した革命がシリアにも飛び火したものです。シリアでは、メディアで見聞きしたチュニジアの平和的なデモのスローガンを学校の壁に落書きした子供が、当局に連行され拷問されたことがきっかけとなりました。当局が反政府とみなす民間人は徹底的に拷問され残虐行為が繰り返されました。その結果、現在シリア人の半数以上が国外難民となり、その多くがヨーロッパや隣国へ避難する事態になりました。内戦初期はイランに支援された現政権が反体制派の反撃で劣勢になりましたが、2015年のロシアの軍事支援で、現在に至るまで現政権が維持されています。

今回のロシアによるウクライナ侵攻はシリア内戦の戦術と酷似しています。まずライフラインである市場や電気ガス系統を徹底的に攻撃、空中戦で上空から街ごと破壊し、戦力を喪失させるなどの戦術をとっています。また今回、シリア内戦時に市街地戦経験のあるプロの兵士を、資金を使って募っています。

ロシアのラブロフ外相は、西洋の記者の質問「ウクライナの民間人が犠牲になり何も感じないのか」に対して、2003年にアメリカ政府が「大量破壊兵器」を持つという理由でイラク侵攻を正当化したことを引き合いに出しました。

「どんな軍事作戦にも民間人が「Collateral damage (巻き添え被害)」となっている。この言葉は西洋が使い始めた。イラクやリビアの戦地でさえも軍事介入により多く死者が出た。なぜ西洋のマスコミはイラクやリビアの時には、それほど視聴者を感動させなかったのか。マスコミによるゲームの駆け引きには参加しない」

と述べています。また、ロシアはウクライナが核兵器や生物兵器などの開発を行っているとの主張も強調しており、ウクライナ侵攻の口実にしています。

戦争勃発の背景は違うものの、アラビア語メディアでは、シリア内戦で祖国を追われたシリア人は、避難したウクライナの地が、今回の侵攻で戦地と化しており、シリアとウクライナは同じ状況にあると述べている記事が出ています。

また、父親がシリア人である11歳のウクライナ人の男の子ハサンは、ウクライナ東部からスロバキアまでの1000kmの道を一人で避難してきました。シリアで生まれてすぐ、父親は内戦で行方不明となり、母親の母国ウクライナへ逃れましたが、今回の侵攻により、母親はウクライナからその子を一人で出国させました。ウクライナに住むシリア人にとっては、人生で二度も住んでいた地が戦地と化し、私たちの想像を絶する体験をしています。

最近、スポーツ界で優勝したエジプト人は、優勝インタビュー時に、
「これまでの政治とスポーツは切り分けるということから、今回突然、それが許されたので、ウクライナと同じように、74年にわたり抑圧を受けているパレスチナについても話していく」と述べています。

今回のロシアによるウクライナ侵攻により、相次いでロシア選手がスポーツにおいて国際大会から排除されています。

※アラブ圏つまりアラビア語話者の諸国は、政治体制は違うものの、国を超えて、瞬時に情報が往来します。シリアは、内戦前はドラマ制作で有名で、多くのアラブ諸国でシリアのドラマが視聴されていました。シリアで起きている情報は他のアラブ諸国にも拡散しますし、現にチュニジアで発生した革命は他のアラブ圏に瞬く間に波及し「アラブの春」をもたらしました。

今回は、ウクライナ情勢にかかるチュニジアとアラブ圏への影響について紹介しました。

ただし、アラブ諸国でロシアによるウクライナの侵攻を非難するという団結した考えがあるのかといえば、そうではありません。例えば、国連の2月25日の安全保障理事会では、非常任理事国のアラブ首長国連邦が棄権を投じています。同国は、リビア内戦でロシア側でした。一方で、原油増産を表明しています。3月2日の緊急特別総会では、シリアが国連非難決議案に反対しています。アルジェリアはロシアから武器を購入しているため、棄権に回る一方で、欧州への天然ガス供給には合意するという、各国がそれぞれの外交政策をとっています。

アラブ諸国での紛争は、大国の軍事介入が多く、ある国の紛争では敵同士、ある国では味方同士となり、代理戦争が現在でも繰り返し返されています。

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