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魅力あふれるアラブの世界(第3回)アラブ圏と日本文化との共通点 伝統文化編(1)

 この記事は、アラブ圏をターゲットとした商品開発や販路開拓、海外企業との協業等を検討されている、経営者や事業責任者の方にお伝えしたい情報です。
 弊社スタッフがアラブ圏での在住経験をもとに、工業・人材・食・生活・美容・宗教など、多種多様なアラブ圏の特徴と魅力を、様々な角度からご紹介していきます。

今回は、アラブの伝統文化からみた、個人的に興味深かった日本文化との共通点を紹介したいと思います。

1. ことわざ、俳句、詩、国歌 

英語や中国語の諺でも日本語と同様の意味を持つ諺もありますが、アラビア語にもよく似た諺が多くあります。
「雄弁は銀、沈黙は金」:仏語にも英語にもありますが、アラビア語から由来したものとも言われ、「話が銀なら、沈黙は金( إن كان الكلام من فضة .. فالسكوت من ذهب)」といった表現になります。
「類は友を呼ぶ」:アラビア語でも「鳥は似た形の鳥の方へ降り立つ( الطيور على اشكالها تقع)」といった表現があります。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」:アラビア語では、元々は詩からの一節で「満杯の稲穂は謙虚に頭を垂れるが、空っぽの稲穂は直立したまま( مَلأى السنابل تنحني بتواضعٍ … والفارغات رؤوسهنّ شوامخُ)」といった表現になります。

日本には長詩や定型詩である5・7・5・7・7の短歌や5・7・5の俳句等の短詩など様々な詩体がありますが、アラブ世界にもザジャル、ムワッシャフ等数多くの詩体がみられ、詩体によって異なるカーフィーアと呼ばれる語尾に韻を踏むようなスタイルが用いられています。

また、アラブ諸国の国歌にもアラブ詩は採用されています。チュニジアの国歌は、一部は南部トズール県出身の詩人からのものですが、その他の大部分はエジプト人による作詞です。またチュニジアとアルジェリア国歌の作曲はエジプト人です。イラクの国歌は、サダムフセイン政権崩壊後、2003年にパレスチナ人による詩を採用し、作曲はレバノン人です。アラブ世界では、良い作詞と作曲を互いに採用していました。

日本の国歌である“君が代”も、5・7・5・7・7の短歌からできており、誰が作ったかは定かではありませんが、古今和歌集の一節からのものであり、アラブ圏でも詩を国歌の一部に入れており、ここにも共通点がありますね。


2. アラビア書道( Arabic calligraphy )

 アラビア書道は、2021年にアラブ諸国16か国の共同申請でユネスコ無形文化遺産にも登録されています。

葦製の筆

アラビア書道に使用する筆は、リーシャ(アラビア語で「羽」の意)と呼ばれ、葦の一種からできています。墨汁に相当するインク(حبر)は、現在ではカラーインク等様々な種類のものも使用されています。

 日本書道には行書体や草書体等の様々な書体がありますが、アラビア書道にも数多くの書体があります。

クーフィー体の種類の一種


クーフィー体は最も古い書体で、イラク南部の都市クーファの名から由来したと言われています。

他にもナスヒ体は昔の多くのコーランによく記され、現代ではgoogleのアラビア文字表記等にも使われ、ルカア体は主に書籍のタイトル名に使用されています。マグレビ体は現在のマグレブ周辺地域で、アンダルシ体はイベリア半島がイスラム王朝だった時代に生まれた書体です。ナスターリーク体はペルシャ語やウルドュー語でよく使用される装飾のような書体、スル―ス体ディーワーニ体はオスマン帝国時代に、中国体は中国の王朝時代に中国語を混ぜた書体として発明されました。 

アラビア語の文字は、右から左に書き、その特性から1つの単語は英語の筆記体のように書かれます。そのため一筆書きのように模様として描くことも可能です。日本人のアラビア書道で有名な方はアラビア書道の免許も有する本田孝一氏です。トルコのイスタンブールで3年ごとに開かれる国際競書大会でも受賞しています。

世界には19億人のイスラム教徒がおり、内アラビア語ネイティブは4億人程度です。非ネイティブのイスラム教徒にとって、アラビア語はコーランに記されている“神聖”な言語であり、他の言語とは異なる特別な地位にあります。
またアラビア文字はペルシャ語やウルドュー語、オスマン帝国崩壊前のトルコ語でも使用され、アラビア語とは語順は異なるものの、非ネイティブにとっても身近な存在です。

 アラビア書道はコーランを美しく書き写すために発展しましたし、代数学(algebraالجبر)に見られる学問等の発展も、「イスラム教によるアラブの文明(الحضارة العربية الإسلاميةアラブ・イスラム文明)」と言われ、イスラム教をもって古代アラブ世界は発展を遂げたと言われています。
 日本書道の盛り上がりは仏教の伝来とともに多くの人が写経(お経を写す)を行うことになったと言われ、この点でも共通点がありますね。
 

3. アラブ楽器(琵琶とウード、鼓とダルブーカ、琴とカーヌーン、縦笛とナーイ)

アラブ圏には、日本の和楽器に似たアラブ楽器が多くあり、今回はアラブの音楽家と併せてご紹介します。

Qanon カーヌーン

 カーヌーンは琴に似た、指でつまびく弦楽器で、は13弦または17弦を琴爪で弾きますが、カーヌーンでは3弦1組の復弦が26列も張られ、計78弦を付け爪セット(指ぬきとピック)で奏でられ、様々な音色を出します。その起源はイランのメズラブ(細いピック)で弾くサントゥールと言われています。
ヨルダンの音楽グループ代表のハリーム氏は、グラナダに都をおいたナスル朝時代のアンダルスの詩人によって書かれたムワッシャフ詩体にメロディーがつけられた楽曲を奏でています。   

Oud ウード

 ウードは、その“製作と演奏”において、シリアとイランの共同遺産として2022年ユネスコ無形文化遺産に登録されました。
琵琶は4弦を基本としますが、ウードは6列のうち5列が2弦の復弦、1列が単弦の計11弦からなる高度な技巧を要する楽器です。ウードを弾く撥(バチ)もリーシャと呼び、琵琶の胴体は薄い一方で、ウードは洋ナシ型です。
ウードの起源もイランのササン朝ペルシャの楽器「バルバト」と言われ、アラブ圏へはウードが、西洋へはイベリア半島を介してリュートの原型となりギターへと発展し、日本の琵琶はシルクロードを通って中国から伝わったといわれています。
ウード奏者で有名なイラク人ナシール・シャンマ氏はインドの弦楽器シタール奏者等、世界の音楽家とセンションをしています。

Darbuka ダラブーカ(ダルブッカ 他)

ダラブーカは、和太鼓ののように肩に構えるのではなく、膝や腰あたりに携える打楽器です。大きさは様々でトルコ音楽でも使用され、西アフリカのジャンベにも似ていますね。チュニジアには各家庭に1つはあり、祝い事等で演奏されることもあります。
ダラブーカが用いられた音楽でおすすめは、エジプトの都市ブールサイードの伝統音楽を、エジプト方言とスペイン語の両言語で現代風にアレンジしたリミックス版です。

Ney  ナーイ

ナーイは、葦の一種で作られた縦笛です。日本の尺八は、竹の根元部分を使用した比較的太い楽器ですが、ナーイは細長く、傾けて吹きます。トルコやイランにもあり、長さや穴の数が違うなど種類も様々です。レバノン人ピアニストAleph氏は、フェイルーズ音楽をナーイ奏者も交えてセッションし、現代風に仕上げています。


今回は、アラブ圏の伝統文化について紹介しました。毎年12月18日は“アラビア語の日”として国連によって定められ、アラビア語は国連公用語の1つでもあります。そして12月25日はクリスマスです。日本ではこの時期に街中でクリスマスソングが流れ、“メリクリ“と言う言葉があるほど、馴染みのあるイベントですが、クリスマス(イードルミラード)は、ヨルダン川西岸ベツレヘムで生まれたとされるイエス(イーサعيسى)の降誕祭であり、アラブ人キリスト教徒にとって神聖な日です。

アラブ世界の歌姫フェイルーズは多くのクリスマスソングを歌っています。例えばジングルベルはアラビア語版で レイリタ・イード(イードの前夜)と名付けられ、クリスマスイブ(レイリタ・イードル・ミラード)を意味します。アラビア語版クリスマスソングは他にも多くありますので、是非聞いてみてくださいね。
今年もブログをご覧下さり、誠にありがとうございました。皆様、良い年末年始をお迎えください。

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