チュニジア現地レポート(第13回):収穫時期を迎えるチュニジアのデーツ(ナツメヤシの実)
こちらの記事は、チュニジアの食材や食文化に関心を持つ方にお伝えしたい情報です。
以前のブログで、チュニジアの特産品について、度々紹介してきましたが、今回は10月から収穫期を迎える砂漠地域の特産品デーツ(ナツメヤシの実)について掘り下げていきたいと思います。デーツは、日本ではなじみの薄い果実ですが、実は世界的にはスーパーフードの1つと呼ばれ存在感を高めています。
1. デーツ(ナツメヤシの実)10月が収穫期
デーツは、何千年も前から砂漠の民によってオアシスで栽培されていた世界で最も古い果実とも言われています。また、デーツはラマダン月の日没後の第一食目(イフタール)に食されることも以前の記事で触れました。
断食後の一食は身体が一番栄養を欲している時でもあり、一粒で豊富な栄養素が摂取でき、保存も簡単であるデーツは現代まで食べ続けられています。
また欧米諸国にもデーツはアサイーやチアシードなどとともにスーパーフードとして評価されています。
デーツの見た目はドライプルーンにも似ています。
人によっては抵抗感のある見た目ではありますが、一度デーツのおいしさを知るとついつい手を伸ばしてみたくなります。
デーツには様々な食べ方があります。
デーツだけで十分に味わうことはできますが、例えば、種を取ったデーツの中にバターと合わせてピスタチオまたはカシューナッツ、落花生等のナッツ類と合わせて食べるのも見た目だけでなく2度味わうことができます。
さらにデーツは、日本でもお好み焼き用のオタフクソースにも使用されていますし、マグレブ地域とマルタの伝統菓子でもあるチュニジアのカイラウェン(ケルアン)県発祥のマクルードにもデーツのペーストが入っています。
※デ-ツの収穫時期は10月からですが、 “ビスル”と呼ばれる8月の早摘みされるデーツが夏に出回っています。夏場にチュニジアへ訪れた際は早摘みデーツを試してみるのもいいかもしれません。
2. デーツの特産地と職人:ギベリ県、トズール県、ガベス県、ガフサ県
実はデーツは世界各地で様々な品種が栽培されており、湾岸諸国ではイスラム教の預言者ムハンマドが好んでいたと言われるアジュワをはじめ、スックリー、ハドリー、サファーウィ 、マドュジュールが有名ですが、味、形も様々です。
チュニジアにも200以上の品種があり、最も有名で人気のあるデーツは“デグラトゥヌール”です。
デグラはチュニジアで最高品質と言われアメリカでもメキシコとの国境地帯で栽培されています。
この品種は、ずっと昔にアルジェリアから伝わったのもので、同国と国境を接するギベリ(ケビリ)県とトズール県には大きなオアシスがあり、デーツの栽培が特に盛んです。
この2県のデーツ生産量はチュニジア全体の約85%、ガベス県とガフサ県で約15%を占めています。
このように、デーツは乾燥した砂漠のオアシス地域で灼熱の陽射しを受けることで、より品質の良い実をつけることから、南部地域の特産品となっています。
しかしながら、デーツはその収穫過程において、熟練の技術が必要です。
ナツメヤシの木は背丈が高く、よじ登っても頑丈ですが、収穫の際に、幹の先端部の芯(ジョンマール)に刃物で傷をつけてしまうと、次回以降、実をつけなくなります。さらにデーツは受粉においても人の手で行われます。
上手くいかなければ小粒のデーツしか育ちません。
またデーツの品質管理においては、栽培において水を必要としますが、湿度や1度の雨にも弱いため、気候を見ながら高所の実の部分に雨除けのカバーをする作業も大変重要です。
こういった作業をこなすデーツの収穫者(ガッターア:狩る人)は数年の修練を必要とします。
近年、失業率が高いと言われるチュニジアでも、きつい、危険などの理由で敬遠されているのが現状で、ナツメヤシ農家の人手不足が問題となっています。
今後、デーツの収穫は機械化できるのか、それとも手仕事の伝統技術を持つ職人技として継承し、いかに魅力ある産業にしていくのかが、チュニジアの農業分野でも課題となっていくのではないでしょうか。
3. ナツメヤシの加工品、籠バッグ、帽子、団扇
実は、ナツメヤシは葉やデーツの種なども利用して、様々な加工品が作られています。
トズール県にはデーツ入りはちみつの製造企業が、ギベリ県にはデーツの砂糖を製造する企業もあります。
ガベス県ではナツメヤシの葉を利用した籠バッグ 、帽子、団扇などの特産地として知られ、他県より多くの工芸品を見ることができます。
籠バッグは、昔から市場へ買い物に行く際に、人々に使用されており、最近では、仏資本の大手スーパーのカルフールから、手作り感を全面に出したロゴ入りエコバッグが売り出されています。
ナツメヤシの葉の帽子は、チュニジアの男性陣にとっては夏の必須アイテムです。特に日差しの強い南部では夏場に被る人をよくみかけます。最近では首都でもお洒落としても身に着ける若者を見かけます。
さらにチュニジア版の団扇は、昔から暑さ対策で使用されていました。
個人的に効果は微妙なところですが、2016年にオマーンで開催されたチュニジア伝統衣装のファッションショーで、アイテムの1つとして取り入れられています。さらに、チュニジア版ゴザもあります。
今はソファ文化ですが、これもナツメヤシの葉から作られたもので、昔は地面に座る習慣もあったため利用されていました。
某工芸品館ではチュニジアのナツメヤシの枝やバナナ葉等まだまだ活用されていないあらゆる原料を使用して、現代風のおしゃれな見た目のナツメヤシ製品を作っています。
代表の祖先は、仏植民地時代のマルタ人との交流により、マルタの編み方の技術を習得する機会があり、チュニジアのナツメヤシ工芸品と相性の合う製品を生み出しています。
さらにナツメヤシの木の芯からでる樹液は、ジュースやお酒として古くから飲まれていました。東南アジアにもヤシ酒が存在します。
飲み物として消費する場合、ナツメヤシの芯(ジョンマール)から抽出しますが、前述のとおり、この芯をとってしまうと、木を枯らすことになるため、実のつかなくなった不要な木から作られていました。
またチュニジア人はコーヒーをよく飲みますが、昔はデーツの種からできた飲み物もコーヒーと呼んでいました。
デーツの実の中には細長い種が入っており、この種を煎って粉砕した後、カモミールや生姜等とともに淹れて飲んでいました。
最近では健康志向の高まりでノンカフェインの“オーガニックコーヒー”として観光客や富裕層向けに売られています。
首都でも物産品展などで見かけることがあります。
さらに、デーツの種は豊富なミネラルを含み、潰して土へ返し、肥料としても使っていました。
今回はデーツについて紹介しました。
チュニジア産デーツは日本を含め海外へも輸出されています。
2017年時点の同国の農業省の発表によれば、モロッコが輸出先として1位、次いでマレーシア、フランス、イタリア、インドネシアと興味深い結果となっています。
チュニジア産デーツの品種はデグラだけでなくゴンディ、ケンタ、コスビ、ケンティーシなどもありますので、チュニジアを訪れた際は、本場の南部で売られているデーツの食べ比べに挑戦してみてくださいね!