BtoBビジネスの海外展開 第2章:中小・中堅建設業の海外展開(1)建設業経営者が「海外」を選択する理由
海外展開支援コンサルタントの杉田昌也です。
私は海外企業との直接的な取引や業務提携が必要なBtoBビジネス(日本企業~海外企業間でのビジネス)やBtoBtoCビジネス(日本企業と海外企業との取引や提携を経て海外顧客と行うビジネス)の実現をお手伝いしています。
本ブログの第1章では、全般的な海外展開の戦略やパートナーシップの重要性についてお伝えしてきました。
BtoBビジネスの海外展開 第1章:基礎編
(1)海外展開の背景/展開方法/成功例の共通点
(2)成功に向けた5つの基本戦略
(3)自社に最適な対象国・市場選定
(4)複数の切り口からの市場調査
(5)自社に最適な進出形態の選択
(6)現地企業とのパートナーシップ構築
(7)製品・サービスのローカライズと継続的改善
今回からは「第2章」として、私が多くのご相談をいただく分野の一つであり、かつ日本経済の屋台骨でもある「中小・中堅建設業」に焦点を当てていきます。
建設業界は今、資材価格や人件費の高騰、2024年問題(残業規制)、そして深刻な人手不足など、かつてない激動の最中にあります。そのような中、主に中小・中堅の建設業経営者が、新たな活路として「海外」に目を向ける背景やきっかけは何なのでしょうか。 第1回目となる今回は、国内市場の構造変化という避けて通れない現実を整理し、海外展開が単なる「市場の拡大」以上の意味を持つ理由について解説します。
1.国内需要の縮小を補う一選択肢としての海外展開
日本国内の建設市場は、すでに大きな転換点を過ぎています。人口減少と少子高齢化が進む中、かつてのような大規模なニュータウン開発や、右肩上がりの道路・橋梁整備といった新規建設需要は、中長期的には縮小していくことが確実視されています。今後も建設の仕事がなくなるわけではありませんが、その質は明らかに変化しており、国内需要の主流は「新規建設(フロー)」から、老朽化したインフラや建築物の「改修・維持管理(ストック)」へとシフトしています。 維持管理は底堅い市場ですが、新設工事に比べて一案件あたりの単価が低い、限られたパイを巡って価格競争が激化しやすい等、これまでのビジネスモデルのままで利益率を維持することは年々難しくなっています。
このような環境下、建設業経営者が自社事業の維持・拡大に向けて取り得る選択肢の一つとして、前述のような維持管理事業の拡大や、建設分野内での新たな領域の開拓だけでなく、地域に根ざした異業種(高齢者福祉施設、農業、葬儀業、飲食業など)に展開することも増えてきています。本ブログでは、建設業経営者の経営判断として様々な選択肢がある中から、建設業の海外展開に着目します。
海外の建設市場、特にASEAN諸国や南アジアにおいては、急速な都市化と人口増加を背景に、インフラ整備や住宅・工場建設の需要が爆発的に伸びています。前述のとおり、良くも悪くも建設市場の成長が人口の増減と密接に関わっていることを背景に、国によってはかつて日本が高度経済成長期に経験したような圧倒的な新設需要もみられます。 国内の「縮小する市場」での創意工夫や業態転換、異業種への展開によって自社を維持するのか、国内で培った技術や実績を活かして海外の「拡大する市場」に挑戦するのか、建設業経営者の判断が経営の分かれ道となります。
2.現状維持のリスクと自社の潜在的価値の見極め
「うちは地域密着型の会社だから海外なんて関係ない」「言葉もわからない国に行くのはリスクが高すぎる」 そう思われる経営者の方も多いかもしれません。確かに海外展開にはリスクが伴います。しかし、私はあえて「何もしないこと(現状維持)」のほうが、中長期的には大きなリスクになり得ると考えています。国内市場だけに依存していると、前述した市場縮小の波に加え、災害や国内景気の変動といった外部要因の影響をダイレクトに受けてしまいます。 ここで重要なのは、海外展開を「国内需要の代替」と考えるのではなく、「経営の柱を増やすリスクヘッジ」と捉える視点です。
例えば、国内事業で安定したキャッシュフローを確保しつつ、成長著しい海外市場で大きな利益を狙う「両利きの経営」を実践する中小建設会社が増えています。大手ゼネコンのように巨額の資本を投じて大規模開発を行う必要はありません。「特殊な塗装技術」「短工期での内装仕上げ」「日本文化に根ざした建材の現地展開」「狭い現場での特殊基礎工事」「災害先進国・日本で培われた災害対策技術」など、日本の現場で磨かれた技術や製品は、国内では当たり前であっても、海外のローカル企業には真似できない高付加価値なものとして評価されることが多いです。海外に足場を作ることは、結果として日本国内の本社経営を強固に守ることにもつながるのです。
3.人材確保と海外展開の密接な関わり
多くの中小建設業の経営者様とお話しする中で、最も切実なお悩みの一つとして挙がるのが「人材」の問題です。「人が足りない」「若い人が入ってこない」「ベテランの技術を継承する次世代がいない」という声は、日本中どこに行っても聞こえてきます。一見、海外展開と人手不足は無関係、あるいは「海外に人を出す余裕なんてない」と思われるかもしれません。しかし、実は海外展開こそが、この人材の課題を解決する「逆転の発想」になり得るのです。
第一に、採用への効果です。「地元の現場仕事」だけでは集まらなかった若手が、「世界を舞台に技術で勝負する企業」「海外プロジェクトの経験も積める会社」というビジョンを掲げた途端、目を輝かせて応募してくるケースがあります。また、自社事業に関心を持った外国人人材が、日本本社での勤務を希望して海外から応募してくるケースも同様にみられます。国内だけを見ると若手人材の母数は減少傾向が続きますが、その母数が海外にも広がるとなると状況は全く異なります。海外展開という新たな世界への挑戦が、採用の面で競合他社との差別化を促進し、採用ブランディングにおける強力な武器にもなるのです。
第二に、外国人材の高度活用です。現在、多くの現場で外国人技能実習生や特定技能の方々が活躍していますが、彼らにとって「母国に帰った後のキャリア」は大きな不安要素です。もし自社が彼らの母国に拠点を持っていればどうなるでしょうか。「日本で技術を学び、帰国後は現地のリーダーとして活躍する」という明確なキャリアパス(循環型キャリア)を提示できます。これにより、優秀な外国人材が定着し、モチベーション高く働いてくれるようになります。
このように、建設業の海外展開は、単なる事業拡大の手段に留まりません。自社の組織を活性化し、次世代に技術を繋いでいくための「人材戦略」上も重要な意味を持ってくるのです。
次回の記事では、日本の建設業が持つどのような技術が海外で求められているのか、「世界が評価する日本の建設関連技術」について具体的に解説します。
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