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BtoBビジネスの海外展開 第2章:中小・中堅建設業の海外展開(2)海外市場で「化ける」中小建設業の5つの共通点

海外展開支援コンサルタントの杉田昌也です。
私は海外企業との直接的な取引や業務提携が必要なBtoBビジネス(日本企業~海外企業間でのビジネス)やBtoBtoCビジネス(日本企業と海外企業との取引や提携を経て海外顧客と行うビジネス)の実現をお手伝いしています。

前回の記事では、国内建設市場の縮小という現実を前に、建設業経営者が「海外」を選択する理由についてお伝えしました。 今回は、そこから一歩踏み込み、「では、どのような建設会社に海外で成功するポテンシャルがあるのか?」に迫ります。

「海外で通用するのは、大手ゼネコンだけだ」という認識は、もはや過去のものです。しかし、全ての中小建設業が成功できるわけでもありません。海外市場で着実に事業を進めている企業には、技術面だけでなく、組織や財務、そして経営者のマインドセットにおいても明確な共通点が存在します。

今回はその特徴を「5つの大項目」と、それぞれを支える「3つの具体的な要素」に分解して解説します。これは、海外展開に向けた貴社の「基礎体力診断」でもあります。自社にどれだけのポテンシャルがあるか、ぜひ照らし合わせてみてください。

1.「何でもできる企業」より「尖った企業」

日本国内では「総合力」や「ワンストップ対応」が重宝されますが、海外展開の初期段階においては「何でも屋」は強みになりません。現地にも総合力を発揮できるローカルの建設会社が必ずあるため、勝ち目のない価格競争に巻き込まれることも懸念されます。海外市場で生き残るのは、以下の3点に挙げられるような「尖った特徴」を持つ企業です。

① 技術の「見える化」ができていること
特定の業務について「この工法なら工期を3日短縮できる」「この特殊塗装なら10年塗り替え不要」といった、数字や写真で明確にメリットを提示できる技術や経験を見える化できていることが重要です。例え海外で言葉の壁があったとしても、自社の提供価値を一目で分かる形で提示できれば最強の営業ツールになります。

② 現地の「困りごと」をピンポイントで解決できること
例えば「軟弱地盤での基礎工事」や「雨漏りが止まらない建物の修繕」など、現地企業が技術的に解決できずに困っている課題に対する解決策を持っていると大きな強みになります。日本では当たり前の技術であっても、現地企業にとって高難易度な仕事のお役に立てるのであれば、大きな需要が見込まれます。

③ 大手日系ゼネコンの「隙間」を埋められること
海外に進出している大手日系ゼネコンも、特殊な専門工事については信頼できるパートナーを探しています。日本での業務実績も活かし、「この分野ならあの会社に任せれば安心だ」と言われるポジションを築ければ、海外市場でもリスクを抑えつつ安定したスタートを切ることが可能です。

2.異文化コミュニケーションの基礎体力

海外展開においては、日々の業務の中で異文化を受け入れる土壌(基礎体力)があるかどうかが強く問われます。この点は海外市場に挑戦する以前に、日本国内の業務の現場でこのような基礎体力をどの程度培っているかが特に重要となります。

① 外国人材との「協働実績」があること
すでに日本国内で技能実習生や特定技能外国人を雇用している方も多いと思いますが、彼らを単なる「労働力」としてではなく「共に働く仲間」としてリスペクトできているか、いま一度振り返ってみてください。彼らと築いた信頼関係や教育ノウハウは、そのまま海外拠点運営の要にもなります。

② 「暗黙の了解」や「阿吽(あうん)の呼吸」に頼らない指導力
日本ではよくある「背中を見て覚えろ」「空気を読め」といった考え方は、海外ではほぼ通用しないと考えた方がよいです。自社の技術や安全基準、仕事で大切にしていること等を、言語や文化の異なる相手にも粘り強くわかりやすく教えようとする風土が自社にあるでしょうか。この忍耐強さと指導力は、海外事業を推進する上で不可欠な資質の一つです。

③ 多様性への寛容さと柔軟性
文化や宗教の違いによる生活習慣や働き方の違いを否定せず、受け入れられるかどうかも重要です。日本の常識を一方的に押し付けるのではなく、現地の文化を尊重しながら自社の強みを融合させる柔軟性が求められます。

3.盤石な国内基盤とリスク許容力

海外事業は初年度から黒字化することは稀です。短くても3~5年、場合によってはさらに長期間の赤字に耐えつつ、黒字転換に向けた基礎を整えることを余儀なくされます。また、予期せぬトラブルによる工程や支払いの遅延などもあり得ます。これらを乗り越えるためには、まず日本国内での本業を揺るぎなく継続できている必要があります。

① 既存事業が安定し、キャッシュフローに一定の余裕があること
海外事業が軌道に乗るまでの間、投資を継続できる財務的な体力が必要です。また、万が一海外で損失が出ても、国内事業でカバーできる体制があることで、思い切った挑戦が可能になります。

② 社長不在でも国内現場が回る組織体制
経営者が海外へ頻繁に出張したり、一定期間駐在しても、国内の現場や営業が滞りなく回る権限移譲が進んでいるか。「社長がいないと何も決まらない」状態では、海外展開は経営リスクになり得ます。

③ 最初から大きなリスクは取らない
挑戦にはリスクがつきものですが、まずは自社で許容可能な規模で小さく始めましょう。最初はリスクを抑え、実績を積み上げながら段階的に大きなリスクを取っていく。海外展開で求められるのは、大胆さよりは健全さ・慎重さに裏打ちされた冒険心です。

4.技術の「標準化」と「デジタル化」への適応力

属人的な職人技(匠の技)は素晴らしいものですが、それをそのまま海外に持っていこうとすると、一気に難易度が上がります。特定の熟練者への依存から完全には脱却できなくとも、そのような技術の基本を「仕組み」として提供できる準備ができていることが求められます。

① 暗黙知の「形式知化(マニュアル化)」
熟練職人の勘やコツを、動画や図解を用いたマニュアルに落とし込むことで、100%とは言わないまでも可視化できているか。可能な限り技術の標準化がなされていることで、現地の作業員でも一定の品質を担保できるようになり、海外の現場で目標とする技術水準の達成にも近づきます。

② デジタルツール(建設DX)への親和性
特に高い技術水準が求められる業務については、日本から遠隔で現場の状況を確認したり、指示を出したりする必要性も生じますが、そのような業務におけるITツールの活用に抵抗がないか。ウェアラブルカメラや施工管理アプリなどを使いこなすことで、物理的な距離の壁を克服し、日本品質の管理を実現できます。

③ コンプライアンスと安全基準の言語化
技術だけでなく、日本流の「安全管理」や「品質管理」の基準を明確なルールとして提示できるか。例え現地の法令で定められた安全や品質の基準が高くなくても、自社として達成すべきと考えるより高い基準に合わせた論理的な説明能力が求められます。

5.経営者自身の「覚悟」と戦略的な「機動力」

最後に、そして最も重要なのがトップの姿勢です。中小・中堅建設業の海外展開は、経営者が日本にとどまったまま事業部長や委託専門家に丸投げするといった他者依存の体制では決して成功しません。経営者自身の魂がこもっているか、またその魂と意欲に実際の行動が伴うかどうかが成否を分けますし、海外の顧客企業やパートナー企業もそのような経営者のコミットの有無を冷静に観察しています。

① 即断即決を可能にするオーナーシップ
海外の現場は刻一刻と状況が変化します。日本本社にお伺いを立てて会議を重ねていては、好機を逃し、トラブルを拡大させます。トップ自らが現場・現物・現実を確認し、その場で経営判断を下せる「スピード感」こそが、大企業に対する最大の武器となります。

② 長期的な視座と揺るぎないビジョン
「儲かりそうだから」という短期的な動機だけでは、困難に直面した際に心が折れます。また、国内でより儲かりそうな異業種に展開するなど、海外展開以外の経営判断もあり得ます。「自社の技術で世界のインフラに貢献する」「社員に新たな活躍の場を作る」といった、利益だけでない大義名分(ミッション)を経営者が語れるかどうかが、現地のパートナーや従業員を惹きつけます。

③ 異文化への敬意と学習意欲
経営者自身が、現地の商習慣や文化を学ぼうとする謙虚な姿勢を持っているか。「日本流」を押し付けるのではなく、現地に溶け込み、現地の人々を愛そうとするトップの人間力は、困難な局面で海外パートナー企業が支えてくれることにも関わる最強のリスク管理であり、成功へのパスポートとなるのです。

いかがでしたでしょうか。 全てを網羅する必要はありませんが、これらの要素が多いほど、海外展開の成功確率は確実に高まります。欠けている部分があれば、それらを補う準備や、自社が取り組みやすい内容から始めていきましょう。

次回の記事では、これらのポテンシャルを活かし、具体的にどのように海外へ進出していくべきか、「中小企業に適した進出ステップ」について、リスクを抑えた現実的な方法を解説します。


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