BtoBビジネスの海外展開 第1章:基礎編(6)現地企業とのパートナーシップ構築のポイント
海外展開支援コンサルタントの杉田昌也です。
私は海外企業との直接的な取引や業務提携が必要なBtoBビジネス(日本企業~海外企業間でのビジネス)やBtoBtoCビジネス(日本企業と海外企業との取引や提携を経て海外顧客と行うビジネス)の実現をお手伝いしています。
本ブログでは、海外展開を目指すBtoB(BtoBtoCを含む)ビジネスの経営者様を対象に、海外向けビジネスモデルの考え方や、具体的な準備と検討の方法、成功に向けたポイント、活用すべき支援制度などの参考情報をシリーズで紹介しています。
前回の記事では、基本戦略その3「自社に最適な進出形態を選択する」際に、最初に行うべきことと、具体的な選択肢、現地へのコミットを深める事業発展の例を解説しました。
今回の記事では、基本戦略その4「現地企業とのパートナーシップを構築する」際に、パートナー選びの視点や信頼関係の築き方を深掘りして解説します。
1.なぜ現地パートナーが必要なのか
BtoBビジネスにおいて、自社の力だけで未知の市場を切り拓くには限界があります。現地の商習慣、複雑な法規制、独特のネットワークなど、外部からは見えにくい「壁」を突破するために、現地パートナーの存在は不可欠です。また、自社では強みや売りだと思っている製品の特徴が現地顧客の視点では弱みに転じる可能性など、現地パートナーだからこそ指摘や検討ができる重要事項も多くあります。
信頼できるパートナーを得るのは簡単ではありませんが、現地の見込み顧客へのアクセスが容易になるだけでなく、物流やアフターサービスの基盤を迅速に構築できる、あるいは現地でのトラブル発生時に迅速な対応が可能になるといった大きなメリットがあります。単なる「外注先」ではなく、共に成長を目指す「共創のパートナー」を見つけることが、長期的な成功の第一歩となります。
2.パートナー選びの3つの重要指標
では、どのような現地企業をパートナーに選ぶべきでしょうか。私は以下の3つの視点を重視することをお勧めしています。
第一に「価値観とビジョンの共有」です。まず、パートナー関係を構築する以前の段階で、そもそもパートナー(候補)企業自身がどのような価値観やビジョンを持って経営を行っているかに着目します。目先の利益だけを追うような企業であると、困難に直面した際に足並みが乱れやすく、信頼感に基づいた連携や協業は期待できません。その上で、自社の製品・サービスが持つ価値はもちろんのこと、顧客の視点でどのような課題解決を目指すのか、製品・サービスを持続的に提供する上でどのような価値を尊重するのか、などといった自社の想いに共感してもらえるかが重要です。
第二に「現地市場での実績とネットワーク」です。自社が想定する顧客層に対して既に確固たるチャネルを持っているか、過去に日本企業との取引経験があるか、現地での事業活動に関わる取引先や公的機関等とのネットワークがあるか、現地で積み重ねられてきた実績に基づいた一定の信頼を市場から得ているか、などを確認します。さらに、パートナー企業による調達の観点では、自社とは異なる国・企業からの仕入れ体制があることで調達が滞るリスクを分散できる場合があります。
第三に「役割分担とリソースの明確化」です。自社が提供する技術やノウハウと、パートナーが提供する現地での営業力やサポート体制が補完関係にあるかを精査します。お互いに「何を期待し、何を提供できるか」を具体的にイメージできることが契約後のミスマッチを防ぎます。また、自社とパートナー企業間で行われる実務人材同士のやり取りや、一部人材を交換する人材交流等の機会においても、お互いにできることを尊重し学び合えることが、両社間の信頼関係を構築する基盤となります。
3.信頼関係を深化させるコミュニケーションと協業の積み重ね
候補企業が見つかったら、まずはウェブ会議やメールでのやり取りから始めますが、協業を検討する過程の中で現場に赴き「顔を合わせた対話」の機会を設定することを強くおすすめします。経営者同士が直接会い、現地での事業活動の内側を体験することを通して、数値データだけでは分からない社風や熱量を感じ取ることができます。加えて、両社で現地の現場を視察することを通して、パートナー企業による現場対応の円滑さや、現場の実態を的確に捉える上での着眼点の的確さ、現場で生じた課題への対処など、企業の実力を直接把握・評価することにもつながります。
また、パートナーシップ構築においては、お互いに最初から過度な期待はせず、まずは小さなプロジェクトや試行的な取引からスタートすることをおすすめします。最初は手探りでもよいので、相互の役割分担に応じたタスクをこなしつつ、その過程で生じた諸課題にも共に対応していくことで、少しずつですが着実に実績が積み重なり、お互いの信頼関係も徐々に形成されていきます。
市場環境が急激に変化する中、短期的に何らかの成果が出ることが望ましくはあるものの、パートナー関係を構築していく上での焦りは禁物です。なかなか結果が出ない、先行き不透明な状況を経ても連携関係を維持してきた両社には、特に強固で揺るぎない協力体制が構築されていきます。
次回の記事では、現地での事業を安定・拡大させるために欠かせない「ローカライズした製品・サービスの継続的な改善」について詳しく解説します。
BtoBビジネスの海外展開 第1章:基礎編
(1)海外展開の背景/展開方法/成功例の共通点
(2)成功に向けた5つの基本戦略
(3)自社に最適な対象国・市場選定のポイント
(4)複数の切り口からの市場調査
(5)自社に最適な進出形態を選択するためのポイント
(6)現地企業とのパートナーシップ構築のポイント
(7)製品・サービスのローカライズと継続的改善のポイント
MSCパートナーズでは、BtoBビジネスの経営者様を対象に、海外展開に関するオンライン無料相談(60分)を承っています。こちらからお気軽にご相談ください。



