中小企業のブランディングとマーケティング (第1回):文化の違いによる新たな市場用途
こちらの記事は、海外展開に関心のある製造業の経営者や技術者の方にお伝えしたい情報です。
国内の精密機器メーカーにて10年超の海外営業経験を持つ弊社スタッフNが、
中小企業のブランディングとマーケティングについて実体験を交え、様々な角度からご紹介していきます。
私は過去に10年ほど国内の精密機器(機能部品)メーカーで海外営業職を担っていた時期がありました。その製品用途は主に、家庭用の定置式石油燃焼機器、燃焼バーナやヒータ、水用機器などです。
その燃焼に関わる重要な機能部品を設計開発から生産、検査、納品まで一貫して行っている、
創立からまもなく54年を迎えるメーカーです。
私が海外営業職を担うこととなった経緯やその他の役割、経験してきたことはこれから少しずつお伝えするとして、私のブログ1回目は、その海外営業職時代に経験した海外との文化の違いによって生まれた新たな市場について実例を交えて書きたいと思います。
1. 既存の海外市場と新たな市場
2006年当時、すでにヨーロッパには燃焼バーナ用途で製品輸出をしていました。
クライアントは高圧洗浄機メーカーです。
業務用機種で、より頑固な汚れを落とすために、
高圧洗浄機内部にはお湯を作るための燃焼器具を搭載した上位機種にのみ使用されていました。
一般家庭ではなかなかそこまでの高圧洗浄機を使用して掃除することもありませんから、少々イメージしにくいかもしれません。
例えば、家の外壁や大型車を洗浄する場合などに業者が使用します。
ヨーロッパやアメリカの一般家庭ではそこに燃焼機能までなくとも、家の外壁や自家用車の洗浄用にこういった高圧洗浄機を所有していることが多いです。
日本でも下位機種はホームセンターなどで販売されています。
上位機種(主に業務用)であったためにそこまで多くの数は出ませんでしたが、
輸出ということもあり、ある程度まとまった数量で、長い期間定期的に出ていました。
一方、アジア市場では、クライアントのバーナやヒータ製品が輸出されて、
その機能部品として現地の競合メーカーには知られる存在ではありました。
そんな私が海外営業を担い始めてからまもない頃、一枚のFAXが届きました。
それには、とても丁寧な日本語の長文で、
その機能部品を自社の製品に使用したいので輸入したい、というものでした。
バーナを製造するメーカーです。
既出の通り、バーナはすでに国内のクライアントが製品輸出をしていましたので最初は警戒しましたが、そのバーナの主用途を聞いて単独輸出を決意しました。
それは、家庭用キッチンバーナです。
つまり、日本の家庭料理ではそこまで大きな火力を必要としませんが、アジアでは一般家庭でもある程度大きな火力の出る設備が必要とされている、ということです。
2. まだ“気づいていないだけ”の市場になぜ“気づけなかったか”
それまで40年以上燃焼機器と向き合ってきてこの市場を自ら見つけられていなかった、ということに何を感じられるでしょうか?
それにはさまざまな要因があります。
・“文化=自国文化”基準で考えてしまっている(自社もクライアントも同様)
・新しい市場へ踏み出すには多大な開発費が生じる、またはそれが最重要と考える
・部品メーカーが自ら “市場調査” をすることに予算を割けない、考えが及ばない
もちろん、何も努力をしてこなかったわけではありません。
しかしながら、ここで出会った新市場は、これまでの製品に新しい開発や大きな設計変更を要さずに既存製品を適用することができました。
燃焼機器の業務用途というのは国内外問わず非常に幅広く、様々な機構を有した製品が私たち人間の生活を支えています。
言い換えれば、 “まだ気づいていないだけ” のポテンシャルの大きい用途・市場とも言えます。
3. メーカーが海外マーケティングを始める上で大切なこととは?
それはまた、燃焼機器だけでは決してありません。
この事例を知って、機能部品または部品メーカーが単独で海外市場に出る際に、まず何が重要だと感じられたでしょうか?
それは、相手の文化・習慣を知ること。
つまり、同様の製品(ここでは燃焼機器)がターゲットとする海外市場ではどのような用途でどのように使用されているか “調査” をすることです。
そこから先にかかる開発費はその調査結果を得た後に盛り込むことで、効率的かつ現実的な中長期事業計画を組むことができます。
もしも当時の私のように自社製品の海外市場を模索されているようでしたら、一度しっかりとターゲットを絞った市場調査を行うことをお勧めします。
きっと、日本国内では想像し得なかった市場用途が見つかります。
番外編:自分で歩く海外
<Genova port, ITALY(イタリア ジェノバ港)>
2019 年春にヨーロッパ8カ国を旅し、7カ国目のイタリアから8カ国目のスペインへの移動にフェリーを利用しました。
出港地はイタリアGenova(ジェノバ)。
南フランスを経由する陸移動を避けてこちらを選んだ理由は、フェリーに乗りたかったことと、
もう一つは、ヨーロッパに輸出をしていた際の仕向港がこのGenovaで、その港を自分の目で見たかったためです。
私が乗ったフェリーはもちろん貨物船ではありませんが、
どうやらイタリアに出稼ぎに来た多くの人たちが交通手段の一つとして利用されているようで、私のようなアジア人の観光客は一人もおらず、この2国間の習慣も垣間見ることができました。