チュニジア現地レポート(第20回): TICAD(アフリカ開発会議)の開催経緯とチュニジアでの開催意義
こちらの記事は、チュニジアやアフリカ諸国に関心がある方々にお伝えしたい情報です。
今回の記事では、チュニジアで2022年8月27日(土)・28日(日)の2日間で開催されるTICAD(Tokyo International Conference on African Development:アフリカ開発会議)について紹介します。
1. TICAD(アフリカ開発会議)きっかけ、日本とアフリカが関係を強化することの意義
TICADは、1993年から日本政府主導で、日本とアフリカ大陸の関係強化を目的に、数年おきに開催されてきた、アフリカ開発会議です。共催は国連、 国連開発計画(UNDP)、世界銀行 、アフリカ連合委員会(AUC)で、開催中には、NGOや民間企業が参加する様々なサイドイベントも実施されます。
アフリカ大陸は、長く列強の植民地支配が続き、大きくフランス語圏、英語圏、ポルトガル語圏の旧宗主国等による間接統治が行われていました。1989年マルタ会談にて冷戦が終結された1990年以降、日本はアフリカとの関係を強化し始めました。
これまでアフリカは“援助“を施す地域として、見られていましたが、50を超える諸国の中には経済発展を遂げる国々、富裕層や働き盛りの若者が多くいます。TICADには、成熟市場である日本を飛び出し、アフリカ進出の足掛かりとして参加する企業も少なくありません。特に大陸への進出は、民間企業よりもNGOや政府関係者の情報網が根を張っており、官民一体でアフリカ進出を図ることで相乗効果を得ることが期待できます。アフリカ大陸諸国との関係強化は、質の高い技術や商材をもつ日本企業にとっては、ビジネスチャンスでもあります。
TICADのような会合は日本だけでなく、中国も2000年から3年おきに開催のFOCAC(中国アフリカ協力フォーラム)、アメリカは2000年からサブサハラ諸国とのAGOAフォーラム(米国アフリカ貿易経済協力フォーラム)、EUは2000年からAU加盟国との首脳会談が開催され、2022年に6回目を迎えました。
旧植民地を多く抱える、フランスは、1972年からフランス・アフリカ諸国首脳会議を開催し、2021年の第28回ではアフリカ諸国の若者と仏大統領の直接対話が実現されました。近年はフランス語圏だけでなく、大陸全体に対象を広げています。イギリスは、EU離脱を機に、2020年より第1回イギリス・アフリカ投資サミットを開催し、初回は15人のアフリカ元首が参加しています。
2. TICAD過去7回のテーマ等、5年から3年ごとに開催、開催場所の変更
過去7回に渡って開催されたTICADは、各回でテーマがあり、閉幕時には成果物として共同宣言が採択されます。
第1回は、冷戦終結後の1993年に開催され、48か国、5か国の首脳が参加しました。東京宣言 にて「官民の協力がアフリカ開発の一つの重要な要素」であると明言されています。
第2回(1998年)は、15名の元首・首脳が参加しました。「東京行動計画」が採択され、来たる21世紀に向けて、教育・貧困・健康の社会開発分野を含める提言がなされました。
第3回(2003年)TICAD開催は、10周年となる節目を迎え、24名の元首・首脳、チュニジア首脳も初参加しました。2001年にAU(アフリカ連合)首脳会議で採択された「NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)」へ合意としての支援が含められた、「TICAD10周年宣言」が採択されました。
第4回(2008年)以降は、会場がこれまでの東京から横浜に変わり、41名の元首・首脳、51か国が参加しました。民間やNGO等からも3,000名以上が参加し、「横浜宣言」と「横浜行動計画」が採択され、年率5%を超す高い経済成長を遂げる、アフリカ市場での経済面と政治面での「人間の安全保障」も宣言されました。
第5回(2013年)は、39名の元首・首脳級を含む51カ国、民間やNGO等から4,500名が参加しました。同年アルジェリアでのガスプラント襲撃事件も受け、「横浜宣言2013」では、テロや紛争の根本的原因への対処として「平和と安定」が明記されました。また、民間セクター主導による成長の重要性から、アフリカ首脳と日本の民間企業代表の「民間との対話」が初めて実施され、「横浜行動計画2013-2017」では、今後5年間で達成すべき目標が掲げられました。
第6回(2016年)は、初のアフリカ大陸開催となり、53か国が参加しました。また、アフリカ側の強い要望で5年から3年毎の開催に変更され、以降はアフリカと日本での交互開催となりました。記念すべき初開催地はケニアとなり、「ナイロビ宣言」、「ナイロビ実施計画」が採択され、民間セクターからの参加も増え、計11,000名以上が参加しました。
前回の第7回(2019年)横浜開催では、42名の首脳級を含む53か国、民間やNGO等計11,000名以上が参加しました。「ひと、技術、イノベーション」をテーマとした「横浜宣言2019」を採択し、第6回の2倍を超す企業が参加しました。「官民ビジネス対話」は、TICAD史上初、民間企業を公式なパートナーと位置づけた、直接対話の場となりました。
過去3回の開催を経験する横浜市は、2008年のTICAD Ⅳ開催を機に、アフリカ理解のための教材を作成し、交流を深めています。
TICADの主な目的の一つは、官民間のグローバルなパートナーシップを促進することです。第1回の開催時から官民の協力が明言されていました。アフリカ諸国の発展にともない、日本企業の進出機会も今後ますます増えていくことでしょう。
3.チュニジアでの開催意義
アフリカ初開催の地は、現在では目覚ましい発展を遂げている英語圏ケニアでした。ケニアは多民族国家でありながら、国民がスワヒリ語で意思疎通を図り、英語を教育言語とする国です。2022年、アラビア語圏でありフランス語圏であるチュニジアでの開催は、50超の国を有する大陸内に多く分布する、英語圏、フランス語、アラビア語圏を網羅する形となります。チュニジア一帯がかつてイフリーキーヤーと呼ばれたことに由来するアフリカの名の原点としても、チュニジアでのTICAD開催はアフリカ大陸について理解を深める良い機会となるのではないでしょうか。
外務省によれば、2020年時点アフリカ大陸全体で日本企業900社程が拠点を有しています。ASEANに比べ、地理的にも遠いため、進出数は少ないものの、例えば、欧州への輸出地として北アフリカ地域は魅力的な場所に位置し、大企業に至っては、日本向けの資源確保の地ともなっています。また近年、未開拓市場として、中小企業の進出も目立ちます。
チュニジアはアフリカ大陸に位置すると言っても、大サハラを挟んで、サハラ以南とは、一線を画す地域に位置しますが、実はスーダンやジブチのようなアラビア語圏、西アフリカのフランス語圏の国々と衣食住、さらには東アフリカのスワヒリ圏では言語、ポルトガル語圏では食文化に共通点を見出すこともできます。
チュニジアは、アラブ圏で唯一の民主主義国家として、アフリカ圏で比較的独裁色の強い長期政権が乱立する中で、日本と同じ、民主主義という価値を共有する国です。民主化に移行して10年程のチュニジアですが、アフリカ諸国と日本のパートナーシップ構築の上で、良い連携を築けるのではないでしょうか。女性の社会進出が珍しくないチュニジアで、同国史上初の女性首相となったブデン氏は、TICAD8開催の年に、日本語での挨拶に挑戦しています。
今回は、今年8月に開催予定のTICAD8について紹介しました。来年2023年はTICAD開催30周年となります。アフリカ大陸は人類発祥の地でもあり、2050年には4人に1人がアフリカ人と予測されています。日本とアフリカ大陸との関係は、現在のモザンビークからポルトガル船を介して渡った、信長時代のヤスケまで辿ることができます。
人類が誕生したアフリカへの回帰と言った意味合いでも重要な大陸です。容姿、宗教、言語も様々で、国境で区分するには足りないほどの多様性に満ちあふれた多民族国家を有する大陸です。