チュニジア現地レポート(第2回): 現地市場での日本企業展開のポテンシャル(1)
この記事は、アフリカをターゲットとした販路開拓や海外企業との協業等を検討されている、経営者や事業責任者の方にお伝えしたい情報です。
2022年8月開催予定のアフリカ開発会議(TICAD8)開催国であるチュニジア。
チュニジア在住の弊社スタッフSが、
チュニジア北部・南部両方での居住経験をもとに、
工業・人材・食・生活・美容など
多種多様なチュニジアの魅力を様々な角度からご紹介していきます。
前回の記事では、チュニジアの概要やアフリカ大陸の中での立ち位置等についてご紹介しました。
今回は、すでにチュニジアに進出している日本企業の事例をご紹介します。
1.地域ごとの日本企業の進出例
チュニジアでの日本企業の進出数は13社程ですが、
国内には120以上の工業地帯、11の産業別テクノパーク、
15のサイバーパーク(ICTに特化)、2つの経済活動地区(PEA)があり、
日本企業も製造業や農業等、ビジネスに応じた地域展開を図っています。
日本企業の進出は主に首都周辺に見受けられ、
工業地帯のあるベンアルース(チュニス大都市圏)に
2006年東レが進出し、
現在エアバッグ縫製品の製造工場が、北東のナブール県と2拠点あります。
他方、貿易港のある東沿岸スース県では
周辺国との物流拠点を目指す日本企業が進出を検討しています。
さらに1997年時点でYKKが現地法人を設立、
2007年山一電機が太陽光発電分野で進出しています。
沿岸部のモナスティール県の工業地帯では
若手ITテックのスタートアップ企業HRDataBankが日本から参戦し、
近年チュニジア人のエンジニアレベルが評価されています。
また、2019年には住友電装も新工場を設置しています。
同社は既に2008年北西部のジェンドゥーバ県の工業地帯でも
欧州向けの自動車部品製造拠点として工場を構えていました。
チュニジア全土に展開する矢崎総業は2009年から南部のガフサ県、
北部のケフ県、ナブール県、ビゼルタ県と
自動車部品の製造工場を構えています。
2019 年にはドローンの製造・販売を手掛けるフジ・インバック社が
南部沿岸のスファックス県で地元企業との合弁会社を設立し
中東、アフリカ諸国への販路展開を図っています。
北西内陸部シリアナ県では
オリーブ研究の筑波大学発のアレナビオ株式会社が地元企業との協業を開始し、
日本への高品質のオリーブオイルの輸出が始まっています。
2.日本企業進出数はアフリカの中でも比較的上位
実は、日本企業の同国の進出数は
アフリカ全54か国の中10位(2019年版アフリカビジネスパートナーズ社)と
比較的上位に位置しています。
これは同国の地理的な立ち位置も大きく影響しているといえます。
チュニジアの日本企業も
欧州向けの自動車部品の製造工場が拠点を構えており、
欧州圏、その他の中東やアフリカ圏へは2、3時間程の距離で時差も少なく、
展開を検討している企業にとっては
選択肢の豊富な位置にいるといえるのではないでしょうか。
また、古くから様々な文化が行き交う歴史的背景から、
現代においてもアラビア語とフランス語の多言語表記など
外国語に接する社会環境があります。
加えて、インターネットの普及でチュニジアの若者も
外国人と英語でのコミュニケーションを積極的にとることも、
外国企業にとっては参入しやすい要因なのかもしれません。
さらに、同国は独立後、教育に力を入れる政策をとり、
大学までの教育がほぼ無料と、
チュニジア全土で教育機会の均等に努めてきました。
初等教育からフランス語と英語授業を導入し、
高等教育に至るまで外国語教育で、
様々な市場への適応能力が高いように思えます。
加えて両隣の国々よりも国土が小さく、
それほど資源大国ではないことから、より一層教育に力が入れられ、
チュニジア人の教養レベルが底上げされたのではないかという見方もあります。
3.注目すべき人材とインフラ
チュニジアは、欧州や中東市場への参入を視野にしている企業にとっては
言わずと知れた人材の宝庫です。
同国海外投資促進庁によれば、
新卒者の35%は工学とICT分野で、
理工学系の高等教育卒業生全体に占める割合は世界第2位 (Global Innovation Index 2019)、
「一般的な専門知識」では北アフリカ1位(Global Talent Competitiveness Index 2018)です。
また、同国はアラブ圏とアフリカ諸国の中で最も研究者が集中しており、
北アフリカにおける科学出版物の50%がチュニジア人のもので、
既に多くの国際的企業が同国に研究開発センターを置いています。
人材面で特に注目したいのは女性の社会進出です。
同国は1956年の独立時には既に一夫多妻制が禁止され、
両隣のアルジェリア、リビアの女性よりも
社会的権利を有すると言われています。
研究所や国会など高学歴の女性が多く見受けられ、
薬剤師の70%、医者の50%、裁判官の40%が女性 という高さです。
現大統領夫人も現役の裁判官であり、
同国紙幣には北アフリカで初めて医者となった女性 が印刷されています。
チュニジアから始まった「アラブの春」は
南部を発端にSNSを通じてチュニジア全土に拡散しました。
昔からチュニジア人のインターネットへのアクセス率は
アフリカ圏の中でも3位と高く、
現在もさらにICTが発展しています。
首都では配車サービスが利用でき、
チュニジア版アマゾンのJUMIAでは
全国どこにいても気軽なネットショピンングが可能になり、
コロナ禍で場所を選ばない買い物がさらに加速したように感じます。
ICTの発展が首都と地方の差をますます埋めつつあり、
また既に南部には国際線空港も設けられていることから、
今後もチュニジア全域で企業の進出がさらに広がるのではないでしょうか。
次回は、進出済みの日本企業の事例について、さらに掘り下げてご紹介します。